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東京地方裁判所 平成11年(タ)896号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 須田徹

同 垣内惠子

被告 B

右訴訟代理人弁護士 渥美三奈子

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

原告と被告とを離婚する。

第二事案の概要

一  前提となる事実

1  原告(昭和一六年三月一五日生)と被告(昭和一七年二月二〇日生)は、昭和三八年二月二一日に婚姻の届出をした夫婦であり、両名の間には既に成人した長女C(昭和三九年一月二八日生)、次女D(昭和四〇年七月二五日生)、長男E(昭和四五年六月二九日生)がある(甲第一号証)。

2  原告は、被告との間の婚姻関係は被告によって行われた原告経営に係る有限会社X運輸(以下「X運輸」という。)への業務妨害、原告本人への暴行及び嫌がらせ行為等により完全に破綻し、右婚姻関係の回復を期待することができないから、本件は民法七七〇条一項五号所定の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するものであり、たとえ原告がいわゆる有責配偶者であるとしても、被告が離婚により精神的、社会的及び経済的に極めて過酷な状態に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情は認められないなどと主張して、被告との離婚を求めている。

二  当事者の主張

1  婚姻関係破綻の有無

(原告の主張)

原告は、平成九年二月二七日、原告が交際している女性の存在が被告に明らかになり、被告から同居を拒絶されて以来、別居している。

右別居以後、原告は被告から以下に述べるような様々な嫌がらせ行為を受けるようになり、原告の被告に対する愛情は冷め、婚姻関係は完全に破綻し、その回復の見込みはない。

(一) 被告は別居直後から、X運輸事務所において机の上の書類等をかき回すなどして暴れ、従業員に対し「社長はあなたを辞めさせようとしている。」等と虚偽の事実を伝え、従業員を混乱させた。

(二) 被告は原告に無断で原告の預金を引き下ろし、X運輸が得意先から受領した手形を持ち出し、原告を契約者とする生命保険を解約する等、原告及びX運輸を経済的な混乱に陥れ(甲二、三)、また、X運輸の印鑑を偽造し、銀行に届出印の変更届を提出した。(甲四)

(三) 平成九年三月、X運輸の事務担当者が従業員に支給する給料を銀行から引き下ろしたところ、被告はこれを奪い、原告に無断で従業員に「お給料の振込の件について」と題する書面を配布した(甲五)。これは資金調達困難のため給料の支払が遅れるとの内容であり、この文章の配布によりX運輸の従業員は同社が倒産すると誤解しパニックとなった。原告は長女からお金を借り、どうにか従業員に給料を支払ったが、従業員の不安は容易に払拭されなかった。

(四) 被告はX運輸の帳簿類等を大量に持ち去り、以後X運輸の経理事務処理は滞った。そこで平成九年七月二五日、X運輸は被告に対し、帳簿類等を引き渡せとの仮処分決定を得て(東京地方裁判所平成九年(ヨ)第四〇三九号、甲六)、同月三〇日仮処分を執行した。しかし、帳簿類は全部は戻らず(甲七、八)、以後X運輸は経理事務処理上かなりの困難を強いられた。

(五) 原告は被告から暴行を受けた。

平成九年六月三日、被告はX運輸の事務所内で穴開けパンチを使って原告の頭部を殴打した。また、平成一〇年七月一日、被告は原告を事務所の階段から突き落とし、原告は腰の骨が欠ける傷害を負った。

(六) 被告は、原告の宮城県在住の兄弟、ゴルフ仲間、釣り仲間、仕事の取引先等に対し、「うちのおやじには女がいる。」と言い回った。また、原告は以前からトラック協会の常任委員をしていたが、被告は新たに同協会の婦入部に加入し、その会合で「うちのおやじは女狂いで、女に貢いでいる。」と発言した。このようなことから、原告の各所における体面は丸つぶれであり、取引先に対する信頼を失った。

(七) 被告は時々事務所に来て、嫌がらせのメモを従業員の目に付くような場所に置いていった(甲九の1ないし4)。

(八) 被告は、平成一一年一月ころ、原告の交際相手の女性が住む新築の居宅及び車両に糞尿をまいた(甲一〇)。

(九) 被告は、平成九年二月二七日に原告の不貞行為が発覚する以前から朝帰りをする日が多く、ボランティア活動で知り合った友人の兄と交際している。そして、同人のために巣鴨で被告名義でマンションを借りており、被告は度々巣鴨近辺で行動しているところを目撃されている。

(一〇)(1)  原告は平成一〇年一〇月、東京家庭裁判所に離婚調停の申立てをしたが、被告が離婚に応じなかったため、平成一一年三月二四日、大略次のとおりの調停を成立させた(甲一一)。

ア 原告と被告は、当分の間従来どおり別居を継続する。

イ 原告は被告に対し、婚姻費用の分担金として一か月金二七万円を支払う。

ウ 被告は、今後X運輸の建物及びその敷地内に立ち入らない。

(2)  右調停の成立後、原告は被告に対し、婚姻費用の分担金の支払を約束どおり履行している。しかし、被告は調停成立後も、たびたびX運輸の事務所を訪れ、以前と同様に従業員を混乱させる行動をとった。

(被告の主張)

(一) 原告の主張(一)の事実は否認する。

同(二)の事実のうち、被告が甲第二号証の預金を下ろしたこと、及び甲第四号証の変更届をしたことは認め、その余は否認する。

同(三)の事実のうち、被告が甲第五号証の書面を配布したことは認め、その余は否認する。原告は、被告が担当していた経理事務を被告から取り上げ、かつ、X運輸から追い出すことを計画し、経理帳簿類を会社事務室から持ち出して隠したため、被告は給料計算ができなくなり、かつ、資金も調達できなくなって、やむを得ず甲第五号証を配布し、その間に原告を説得するつもりでいた。

同(四)の事実のうち、原告が仮処分の執行をしたことを認め、その余は否認する。

同(五)ないし(九)の事実は否認する。

(九)の事実については、原告は、ボランティア活動を通じて知り合った友人の兄が一人暮らしをする住居を借りるに際し、単身者に貸してくれる物件がなかなか見つからなかったので、原告被告が借主になるという形式をとっただけである。

同(一〇)(1) の事実は認める。同(一〇)(2) の事実のうち、前段は認め、後段は否認する。

(二) 原告と被告の婚姻関係は破綻していない。原告と被告の別居は原告が家出をしたことで始まったのであり、被告が原告との同居を拒否したのではない。

被告は原告の女性関係を知って以来、気が動転し、原告の誤解を招くような行動をとったかもしれないが、いずれも原告が目を覚まして以前のような正常な夫婦関係に戻したいがためにされたことであり、被告は、原告と離婚する意思はなく、一日も早く原告に戻ってきてくれることを願っている。

2  原告(有責配偶者)からの本件離婚請求の可否

(被告の主張)

仮に原告と被告の婚姻関係が破綻しているとしても、前述のようにその原因はすべて原告にある。すなわち、原告は昭和六三年ころIにスナックの経営を任せ、かつ愛人にし、さらに平成四年の初めにはF子(以下「F子」という。)及びG子を愛人にし、現在はX運輸の事務所の隣のH会計事務所のH子(以下「H子」という。)と愛人関係にあるなど、次々に愛人をもうけては彼女らと不貞関係を続けてきた。そして、平成九年二月二七日、被告がこれらの事実に気付き、原告を問い詰めると、何ら話合いを持つことなく被告を振りきって出ていってしまい、それ以来原告と被告は別居している。

よって、原告の本件離婚請求は、有責配偶者からされたものとして信義則に反し許されない。

(原告の主張)

原告が、F子及びH子と交際していた事実は認めるが、I及びG子と交際していた事実については否認する。しかも、原告の気持ちが被告から離れていったきっかけは、平成四年、原告が北海道北見市の病院で前立腺の手術を受け、心身共に弱っているときに被告は何ら気遣いを見せてくれず、夜遊びにふけっていたからである。

また、原告被告間の三人の子供は既に成人し、独立している。

被告は、スナック「アゲイン」を経営し、独自の収入を得ている上、原告は被告に対し別居後は調停の合意どおり一か月二七万円の婚姻費用分担金を支払い続けており、被告はその生活を維持するについて十分な収入を得ているはずである。

さらに、原告は財産分与として、平成九年に新築され、現在原告と被告の共有名義になっている自宅を被告の単独名義にするつもりである。よって、被告は今後の住居の心配は全くない。

また、被告には交際している男性が存在するので被告側にも有責性がある。

したがって、被告が離婚により精神的、社会的及び経済的に極めて過酷な状況に置かれる等原告の離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情は認められず、原告の離婚請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって許されないとすることはできない。

第三当裁判所の判断

一  証拠(甲一ないし八、九の1ないし4、一一ないし一三、一四の1ないし3、一五、一六の1ないし3、一七ないし二六、乙一、二、三の1ないし3、四ないし一四、一五の1、2、原告及び被告各本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  原告と被告は、昭和三五年五月ころ、双方の郷里である宮城県塩釜市において、原告が働く問屋の納入先の商店で被告が店員をしていたことから知り合うようになり、交際が始まった。被告は同じ年の一二月に上京して江東区扇橋にあった洋傘の製造販売小売店で住込みで働くようになったが、原告が五トントラックの大型免許を取得するのを助けるために、毎月給料の半分に当たる二〇〇〇円から三〇〇〇円を原告に対し送金していた。

原告は、昭和三六年秋ころ大型免許を取得した後、上京し、千代田区神田にあったY運送株式会社(以下「Y運送」という。)で運転手として勤務して、同年の暮れには板橋区徳丸三丁目にある三畳一間のアパートを借りて生活するようになった。そのころから、原告と被告は、将来互いに結婚しようと考えていた。

2  原告は、昭和三七年七月、群馬県嬬恋村においてトラックに同乗中、交通事故に遭い、運転者と他の同乗者が命を落とすことになり、原告自らも重傷を負った。そのため、原告は約三か月間入院し、退院後には被告が原告のアパートに来て同棲をすることになったが、二人は貯えた預金を使いながらの生活を送っていた。二人はそのような中で昭和三八年二月に入籍した。

原告は右事故による傷害のリハビリの途中からY運送での勤務を再開したが、昭和三八年四月ころY運送が倒産してしまい、収入を得ることができなくなった。しかし、原告は、Y運送の債権者からトラックを借り、運送の仕事を独立して始めることができ、その後少しずつ従業員も増えていった。被告は、次女の雄子ができて子供の世話に手がかかる時期にも、従業員のため弁当や夕食作り、洗濯をこなし、銀行との資金繰りの交渉なども行っていた。

原告と被告が日々精勤した結果、運送の仕事は順調に伸びていったが、昭和四五年ころ、経理を担当していた従業員の不正が発覚したため、原告はその従業員を解雇する一方、それからは被告が経理事務をも担当し、集金から入出金までの事務すべてをするようになった。そのほか、被告は、会社内の苦情処理や規律維持のために様々な活動を行っていた。

3  原告と被告は、両名の働きにより、昭和四九年に板橋区徳丸四丁目所在の土地を購入することができたほか、昭和五〇年一月には陸運免許を取得することができたため、有限会社であるX運輸を設立し、はれて業務用ナンバープレートを車輌に付けて運送の営業をすることができるようになった。そして、原告がX運輸の代表取締役になり、昭和五三年には被告も取締役に就任した。

その後も、X運輸の仕事は順調に進み、昭和五六年には板橋区徳丸三丁目の土地を購入し、昭和六二年と平成三年には土地を買い増して、その合計六〇〇坪の土地上に倉庫を建てて倉庫業を始めるまでにもなった。

4  原告は、右のとおり運送の仕事が順調に進む中、昭和六〇年に板橋区徳丸四丁目にスナック「アゲイン」を開店するために店舗を賃借し、女性店長を雇ったが、平成元年ころからは被告が「アゲイン」を経営するようになり、その後平成四年ころ、被告はF子を雇われ店長とした。

原告は、平成四年一月、前立腺の治療をするために北海道北見市の病院に入院したが、そのころにはF子との間で、同女が原告の入院する病院に果物や週刊誌を送るなど特別の心遣いをしてくれるような親しい関係になっていたものであり、遅くとも平成五年にはF子と愛人としてつきあうようになっていた。

さらに、原告は、平成八年の終わりころには、F子との愛人関係を継続する一方、X運輸が会計事務を依頼していたH会計事務所の税理士の子であるH子とも肉体関係を持つようになっていた。

5  原告と被告は、被告の積極的な意思に基づき、平成八年、被告の肩書住所地に自宅を新築することにした。被告は、その自宅が完成し、新居への引越しを間近に控えた平成九年二月二七日、原告が自分の荷物もまとめずにぼんやりとしているのが不自然に思われた上、それまでにも人から原告にはつきあっている女性がいると聞かされたこともあったことから、X運輸の机の引出しや原告の使っている車の中を探してみたところ、原告の女性関係を窺わせる写真やH子からのラブレターなどを発見し、衝撃を受けた。

被告は、その日の夜中、長男Eに立ち会ってもらった上で原告と話し合う機会を持ったところ、原告がH子とは別れる、同女とは仕事以外ではつきあわないと約束したので、その言葉を信じることにし、その場を治めることにした。しかし、被告は、その翌日、原告が被告に隠れてH子と会っていることを突き止め、三月一日に家族そろって再度の話合いをすることになった。原告と被告の子供らは、原告に対し家に戻るように説得したが、原告はこれに応じることを拒否し、翌同月二日家を出た。原告は、しばらくは長女Cの家に滞在することにしたが、同年四月には同女宅も出て、アパートを借りて生活している。

6  原告は、右のとおり家を出た直後、X運輸の経理や銀行とのやりとりを被告が行っていたことに不安を感じ、取引銀行に対し、届出印が紛失したとの紛失届を提出した。また、原告は、三月一〇日の給料支払日間近に迫っていたにもかかわらず、給料計算をH会計事務所に依頼すると言い出し、必要な書類をH会計事務所に交付した。そこで、被告は、右書類がないと給料計算ができないため、X運輸の三箇所の営業所責任者とも相談の上、「資金調達困難の為、三月一〇日(月)のお給料は、二〇万円迄とし、三月一七日(月)に残金を現金渡しにしたいと思います。」と記載した従業員あての文書を配布した。同月八日、被告が原告に対し右給与関係書類の返還を要求し原告がこれに応じようとしなかったため、両者の間で争いになり、原告の態度にたまりかねた被告が穴開けパンチで原告の頭部を殴打し、原告は頭部にけがをした。また、原告が前記のとおり取引銀行に対し銀行印の紛失届を提出していたため、同月一〇日、被告がその取引銀行から従業員の給料の振込みをしようとしたところ、手続ができないことになり、原告を呼んでその紛失届を取り下げてもらうという事態になった。

一方、被告は、同年二月二八日及び三月一日、原告が西京信用金庫に預けていた預金一五五万〇九三七円を無断で引き出したり、同年三月四日ころX運輸の小切手を原告の承諾なく振り出したり(ただし、第三者に交付することはなく、被告がこれを保管していた。)、X運輸の所持していた約束手形を換金したりするなどし、また、X運輸の関係者や取引先に対し、原告には愛人がいることなどを言いふらしたりした。

7  原告は、被告をX運輸から排除しようとして、出社を禁止し、経理事務をH子にさせようとしたが、被告がこれに対抗する様々な手段を採るなどしていたため、会社内は混乱を来し、従業員の中からも不安の声が上がるようになった。そこで、原告は、平成九年七月二五日、X運輸の代表者として被告に対し帳簿類等の引渡しを求める仮処分決定を得て、その執行をした上、平成九年九月一二日、X運輸の社員総会において被告を取締役から解任する旨の決議を成立させ、会社事務から手を引くように言い渡した。しかし、被告はその後もX運輸に出社して、経理事務の補助や雑務を行うようにしていた。

8  原告は、平成一〇年一〇月、東京家庭裁判所に夫婦関係調整の調停の申立てをし(同庁平成一〇年家イ六九一一号)、離婚を申し出たが、被告がこれに応じなかったため、平成一一年三月二四日、暫定的に次のような内容の調停が成立した。

(一) 原告と被告は、当分の間従来どおり別居を継続する。

(二) 原告は、被告に対し、婚姻費用の分担金として、平成一一年三月から別居解消又は婚姻解消に至るまで、一か月二七万円ずつを支払う。

(三) 被告は、原告に対し、平成九年二月二八日及び同年三月一日の両日にわたり原告の預金から引き出し、保管中の現金一五五万〇九三七円を返還する。

(四) 被告は、原告に対し、今後原告の経営するX運輸の建物及び敷地内に立ち入らない。

9  原告は、現在、不貞行為発覚後に被告から様々な嫌がらせ行為を受けたと感じ、その方法が尋常ではなく、経済的に多大の損失を受け、X運輸にも混乱を招き、社会的な信用も失ったので、被告とは再び夫婦として一緒に生活することは考えられないとして、被告との離婚を希望している。

10  これに対し、被告は、原告の不倫は一時期の気の迷いであると考え、原告が一日も早く被告の下に戻ってくることを願い、これからも待ち続けるつもりであるとの意思を表明している。

二  以上の事実を前提として、まず、原告被告間の婚姻関係が破綻しているか否かについて検討する。

原告と被告が別居する原因になったのが原告の不貞行為であり、原告がその相手の女性との関係を断ち切ったとまではいえないこと、その別居から既におよそ三年六か月が経過していること、原告が被告とは再び夫婦として一緒に生活することは考えられないと述べ(原告本人)、その婚姻関係継続の意思を失っているとみられることにもかんがみると、原告被告間の婚姻関係を修復してゆくことが必ずしも容易ではないことも確かである。

しかし、原告と被告の婚姻関係は昭和三八年二月以来三〇年以上にわたり継続してきたものであること(原告と被告が知り合った昭和三五年六月から起算すれば、平成九年二月まで優に三七年を超えることになる。)、両者はその間に大小様々な苦労を経験し、これらを共に克服してきたこと、特に、X運輸は原告と被告が、両者の努力の結晶として、心血を注いで築き上げた会社であり、両者のいずれの一方が欠けていても今日の同社の発展はあり得なかったこと、その点において、原告と被告の夫婦関係の絆は決して弱いものではないこと、原告と被告の婚姻から別居までの同居期間と比較すれば、その別居期間はさほど長いとはいえないこと、そもそも原告が被告との別居に至ったのは、自らがはたらいた不貞行為を被告に知られ、その不貞関係を断ち切りたくないという原告の独善的な動機に基づくものであるが、その発覚直後の話合いにおいても被告が原告との同居を拒否したことはなく、むしろ、被告は原告に対し家庭に戻り、やり直すことを希望したにもかかわらず、原告がこれを拒否し、家を出たものであること、現在においても、被告は原告の性格を十分に理解した上で、原告が一日も早く被告の下に戻ってくることを願い、これからも待ち続けるつもりであるとの意思を表明し、被告との婚姻関係の継続に積極的な姿勢を示していること、したがって、原告においてこれまでの自らの行為の是非を顧み、被告との生活をやり直す努力をするのであれば、婚姻関係の修復の妨げになるような事情は特段に見当たらないこと等の事情に照らして考えれば、今後、両者間で円満な婚姻関係を回復することを期待することができないわけではないから、その婚姻関係が破綻したものとは認めることができない。

なお、原告は、被告が原告との別居後、原告の女性関係について噂を流し、原告の社会的信用を失わせたこと、X運輸の経営に大きな打撃を与えたこと、原告の預金を無断で引き出したこと、原告の頭部を穴あけパンチで殴打したことなどを取り上げて、婚姻関係は完全に破綻していると主張する。確かに、被告が原告との別居後に行った行為については行き過ぎた面があったことは否定できないところであろうが、被告がX運輸の業務から排除されないように対抗手段を採ったのは、自らも努力し、貢献して成長させてきた会社にひとかたならぬ愛着があるためであり、その点を理解せずに原告が被告を排斥しようとしたことからすれば、一概に被告の行為を非難することもできないというべきであり、また、被告が別居後に採った行動の根本的な原因は、原告の不貞行為にあるのであり、原告の社会的信用が失われたり、会社内において原告被告の協調が失われたことについては、自らが招いた結果であり、原告はその結果を甘受すべき立場にあるといわざるを得ない上、被告がとった行動の中には、被告が心底では原告との関係回復を望んでいるからこそ行われたことを窺わせるものが少なくないといえるのであり、被告において原告との関係がどのようになってもよいとの感情から右の行動をとったものとは到底認めることができないのである。さらに、原告が主張するような男性との交際を被告が行っていた事実を認めるに足りる証拠はない。すると、原告被告の別居後に被告が前記認定のような行動をとった事実があるとしても、婚姻関係が破綻したものとは認められないとの前記判断を左右するものではない。

したがって、原告と被告の婚姻関係については、民法七七〇条一項五号所定の離婚事由があるということはできない。

三  以上によれば、その余について判断するまでもなく、原告の本件離婚請求は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 高橋譲)

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